目を凝らした先に骨は無かった。そのことに安堵する。
滲んだ汗を拭うと、湿り気を帯びたにおいが一層濃くなった。爪の中まで詰まった土。石粒。這い出る虫。そんなものが混じりあう感覚にも、とうに慣れてしまったらしい。
───このまま、共に埋もれてしまえば良いのだろうか。
暗い底を眺めた束の間、そんなことを思い浮かべた頭を振り払って、睡骨は立ち上がった。物言わぬ男をなんとか引き摺り、穴の奥へそっと横たえる。そうしてから、傍らに積み上げた土を覆い被せ、元の場所へと還していく。
掘って、掘って、埋める。言うなればそれだけに過ぎぬ作業を、今日だけで幾度繰り返したものか。考える余地すら己に与えまいと、睡骨は動き続けていた。それでも肉体の限界が近いのか、土で汚れた視界が霞む。日も落ちようとしていた。だがせめてあと少し。もう一人だけでもと、腕を伸ばす。
眠るための場所は、浅すぎてはいけないのだ。大雨が降れば流れてしまうし、獣や妖が掘り起こしてしまうかもしれない。読経の一つもしてはやれないが、せめて、このくらい。
罪滅ぼしなどと言うつもりは毛頭なかった。ただ、彼のように───野晒しの亡骸を平然と眺めることは、あまりに難しかった。